最新鋭機器のレンタルサービスや幅広いITソリューションを提供する横河レンタ・リース株式会社の業務オペレーション、システム管理、現場改善を担う4名の方に「DX推進者養成講座」をご受講いただきました。
DX推進に必要な視点やスキルを体系的に習得する本研修は、約3ヶ月間にわたり、e-Learningとテキストでの意見交換に加え、2回のオンライン集合研修があります。オンライン集合研修では業務フローを可視化・分析する「VSM(Value Stream Mapping)」の手法や、組織変革を阻害する要因への対処法をはじめ、DX推進の基盤となる考え方を体系的に学びます。
同社では、部門や担当領域ごとに業務の進め方や認識が異なることから、改善施策が現場全体に行き届きにくいという課題がありました。そのため、業務プロセスを俯瞰し、共通の視点で改善を進める必要性を感じていたといいます。
研修受講の背景、研修で得られた学び、そして現場で生まれた変化について4名の皆様に伺いました。
DX推進者養成講座
横河レンタ・リースは、大きく二つの事業を展開しています。一つ目のレンタル事業では、IT機器から計測機器まで幅広い商品を扱っており、レンタル計画から調達・導入・運用・廃棄に至るまで、ライフサイクル全般をトータルで支援しています。
二つ目のシステム事業では、日本ヒューレット・パッカード社のプラチナパートナーとして、ITインフラ領域を中心に、お客様の運用コスト削減や各種課題解決に向けた広範なソリューションをご提供しています。
業務オペレーション統括本部に所属し、業務オペレーション全体に関わる業務品質向上および生産性向上のための企画・推進を担当しています。
同じく業務オペレーション統括本部にて、営業・テクニカルセンター・各事業部・他部門から寄せられる、基幹システムに関する問い合わせへの対応を行っています。発生した事象への対処に加え、マニュアルの作成・更新も担当しています。
担当業務は松下さんと同様で、レンタル事業に加えてシステム事業のマニュアル作成・管理も担っています。また、社内のDXプロジェクトにも参画しています。
レンタル商品の在庫を扱うテクニカルセンターにて、ITインフラ整備や生産ラインの品質向上、現場の業務改善に取り組んでいます。業務委託先や物流業者など外部パートナーとの協業も担当しています。また、営業経由で寄せられるお客様の声を現場改善や不具合対応に反映する役割も担っています。
現場の業務改善を進めるなかで、これまで経験則をもとに取り組んできましたが、局所的な改善だけでは限界を感じていました。
業務は前後の工程と密接につながっているため、俯瞰した視点で考える必要があります。関係者も多く、共通言語や共通手法を持たないことで、改善施策が全員に行き届かないという課題感がありました。そのため、VSMのように「誰もが共通して見られる手法」を使いこなせるようになることを期待していました。
業務を円滑にするためマニュアルを整備しても、人によって受け取り方に差が出てしまうという課題を感じていました。
伝え方や優先順位の付け方など、私たち自身の発信方法にも改善の余地がある一方で、個々の工夫だけでなく、業務プロセス全体を俯瞰して改善する視点が必要だと考えるようになったんです。そこで改めて「DXとは何か」という基礎から学び直す必要性を感じ、受講を決めました。
私は社内のDXプロジェクトに参画しており、人事部からの勧めもあって受講しました。担当業務でも業務オペレーション改善を担っているため、DXの本質を今一度きちんと理解したいと考えていたので、非常によい機会をいただけたと思っています。
VSMは「関係者全員で現状を把握し、より良いやり方を考えるための共通の材料」を示せる有効な手段になると感じました。
また、断片的になりがちな業務の流れや価値の流れを形として後世に残せる点にも価値があると思いました。当時のフローを考えた人が異動などでその場にいなくても「どのような価値創出に向かっているのか」「どこから着手すれば良いのか」といったポイントが明確に共有できます。こうした共通認識を継続的に培っていくことこそが、DXへの近道なのではないかと感じました。
印象的だったのは、講義中にテキストだけでなく、講師から生きたノウハウや実践的なアドバイスを多くいただいたことです。
VSMの本質を理解するヒントとして「家事についてもVSMを書くことができる」の一言が非常に印象的でした。その言葉を受け「ゴミ出し」を例に投稿したところ、講師や受講者から反響をいただきました。 一つの家事も、分解すると「家中のゴミを集める」「袋を補充する」「生ゴミの水を切る」など、複数の工程が存在します。そのうえで、ただゴミ出しが面倒、という捉え方ではなく「どこに時間や手間がかかっているのか」を考えることが効果的な改善につながると、納得感が非常に強かったです。
また、「クイックスモールでいいので、まずは小さく結果を出すところから始めればいい」といったアドバイスも非常に励みになりました。
長く続いてきたやり方やルールを変える際、どうしても周囲の抵抗が生まれがちです。「この方法ならより良くなる」と説明しても、「今までのやり方でうまくいっている」と受け入れてもらえないことが少なくありません。
今回の研修では、そうした「壁」をどのように突破していくか、具体的な手法を学べました。特に、各関係者に対してどのようなアプローチを取るべきかを考える「ステークホルダーマップ」の考えは現場でもすぐに応用できそうです。これまでは自分たちの言いたいことをストレートに伝えてしまい抵抗を生む場面もありましたが、段取りを踏んで巻き込んでいく方法を学べたことは、非常に価値があったと感じています。
私は、重要なステークホルダーの方に、限られた時間の中で情報を伝える「エレベーターピッチ」が特に参考になりました。受講後、さっそく上層部の方へ短い時間で事象を共有するのに活用したところ、話がスムーズに進められるという成功体験も得られました。
これまで他社の方々と合同で研修を受ける機会があまりなかったため、非常に新鮮でした。本研修は講義ごとに投稿が必須となっているため、学んだ内容を振り返り、自分で咀嚼し、まとめる必要がありました。
この一連のプロセスにより、ただインプットするだけでは得られない、知識が確実に身についていく感覚がありました。他の受講者の皆さんがオンラインツール上で投稿する内容も刺激になりましたね。
DXでは、まず現状把握から始まり、俯瞰した課題の抽出、壁の越え方、そして実際に現場を動かすためのプロセス立案・実行が求められます。今回の研修では、DXの第一歩を踏み出すためのストーリーを体系的に学べたと感じています。実務に直結する学びが多くありました。
投稿に対し、講師や受講者の方から非常に早くフィードバックをいただけたことが印象に残っています。どんな意見を発信しても必ず反応をいただけるという安心感があり、とても楽しく取り組むことができました。本当にありがたかったです。
最初は「この内容で大丈夫かな」と緊張しながら投稿していましたが、講師の方や受講者の皆さんと率直でフラットなやり取りができ、最終的には非常に盛り上がっていましたよね。
「楽しく学べた」というのは本当に良いことですよね。なかなかそういう機会は多くありませんし、それだけ身になっている証拠だと感じています。良い環境で学ばせていただけたと思います。
修了課題では、レンタル事業とシステム事業が双方に関わる業務をテーマにVSMを作成しました。両者は社内でも文化が異なる部分があり、業務改善が滞っていた領域です。
まずは私たち受講者4名でVSMのたたき台を作り「この流れで合っていますか?」「抜け漏れはありませんか?」と現場に確認していきました。すると、それぞれの担当者から「まだこういう作業がある」「この順番だとこういう不具合が起きるかも」といった意見やアイデアを自然と引き出せました。
業務改善はつい自分の担当範囲だけで考えがちですが、前後の業務とどうつながるのか、全体を俯瞰して見る役割を担う部署がこれまでありませんでした。VSMを共通言語にしながら全体像を共有できたことで、理解が深まり、人を巻き込みながら意見を吸い上げていくことの重要性を実感しました。
各プロセスを細かく書き出したことで「どこに無駄があるのか」が明確になりました。結果として、短期間でゴールに到達できたことは大きな成果だと感じています。
最終的な成果物を上司や営業トップに説明した際も、全体が俯瞰できるため短時間で問題点を把握してもらえました。修了課題として、実業務をテーマにしたVSM作成に取り組めたことは非常に良かったです。
受講後、上司から「業務改善に必要な考え方が身についたね」との言葉をいただきました。たとえば、他部署から改善要望や不具合報告があった際、以前はたまたま起きた単発の事象なのか、誰もが起こしうる問題なのかを判断しきれない場面もあったんです。
今は勝手な憶測を立てず、まずは相手に事象を正しく確認するようにしています。その結果、より詳しい情報を引き出せるようになり、必要な連携先もすぐに判断できるようになりました。早期解決につながるケースも増え、姿勢の変化を評価してもらえたのだと思います。
5月から約3ヶ月間、現場で具体的な改善活動を進め、最終レポートまで作成しました。期間が短かかったため「最後まで行けるだろうか」と不安もありましたが、メンバーの協力で打ち合わせをどんどん進め、全員で議論し続けながら取り組めました。
時間をかけすぎると世の中の状況が変わってしまうため、このスピード感で業務改善が進むのが理想だなと改めて実感しました。
今回の研修は「ビジネスアーキテクト」の養成を主な目的とした内容でしたが、私はデータサイエンティストの領域にも高い関心があります。当社には多種多様なデータが蓄積されているものの、まだ十分に活かしきれていません。データを価値ある形で活用するうえではビジネスアーキテクトの視点も重要ですし、新しい領域も学びながら知識を活かしていきたいです。
オンラインツール上のコミュニケーションや集合研修のグループワークで、業務や環境がまったく異なる他社の受講者の方々と意見交換できたことが、自身の学びをより深められたと感じています。DX以外のテーマについても、他社とディスカッションできるような研修に挑戦してみたいと感じるようになりました。
今回の研修では「学ぶ→実践する」を繰り返す長期型のプログラムで、取り組む前は続けられるか不安もありました。しかし、最後までやり遂げることができ、学びが身についた実感が非常に強いです。今後は後輩にこうした学びを伝えていく活動を積極的に行っていきたいと思います。
全社でDXを進めるための土台は整いつつあるので、今後はいよいよ具体的に動いていく段階に入ります。実際にどんなオペレーションで回すのか、どのようなツールが適切なのか、横断的な判断をどこで誰が行うのか……。一律の正解はありませんが、社内メンバーと対話しながらゴールへの道筋を一緒に作っていきたいと考えています。
社名 横河レンタ・リース株式会社
業種 レンタル・リース、ソフトウェア
設立 1987年1月23日
資本金 5億2,800万円
従業員数 870人 (男性532人、女性338人) (2025年4月1日現在)
ウェブサイト https://www.yrl.com/
デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の競争力を左右する現代。DX推進の成功には、ツールの導入や部署ごとの業務効率化にとどまらず、ビジネス全体を俯瞰し、関係者と協働しながら組織改革を推進できる人材が不可欠です。本講座は、DXの本質的な理解を深めるとともに、DX推進に必要な視点やスキルを体系的に習得する約3ヶ月間の研修プログラム です。
※取材は2025年10月に行いました。
取材・文:Yui Murao