ITプレナーズは2025年10月23日、ビジネスと組織に変化を生むアジャイル・スクラムを考えるオンサイトイベント「Scrum Sunrise2025」を、Scrum.org™社・Optilearn社との3社共催で開催しました。本レポートで、イベントの様子やセッションの内容をお届けします。
複雑性を増し、見通しが立たない現代のビジネス環境において、より多くの価値を早く届ける手法として注目されるアジャイルやスクラム。今や開発部門にとどまらず、ビジネスのあらゆる現場で活用が進んでいます。一方で日本では、スクラムへの理解不足や形だけの運用により「なかなかビジネス成果につながらない」という声も聞かれます。
Scrum Sunrise 2025は、こうした状況をふまえ、Scrum.org™が提唱する「Professional Scrum」の本質に触れながら、日本におけるスクラム実践を共に考えるイベントです。
第3回の開催となる本年度は、200名以上の方にお申込みいただき、グローバルにスクラムのトレーニングと認定資格を提供するScrum.org™ CEO デイヴ・ウェスト氏や、国内大手企業の実践者による講演、認定トレーナーによるワークショップを実施しました。セッション後はパーティーも開催し、スクラムに関心のある様々な業種・職種の方々との交流を楽しみました。
【イベント概要】
開催日時:2025年10月23日(木) 13:30-20:15(18:15-20:15ネットワーキングパーティー)
会場:大崎ブライトコアホール
イベントページ:https://www.itpreneurs.co.jp/event/20251023scrumsunrise/
【スピーカー】
デイヴ・ウェスト氏
Scrum.org™ CEO
政治的な不確実性や世界情勢の変化、そしてAIの急速な進展によって、企業の働き方が大きく揺れ動いています。そうした環境においてスクラムは、本来、変化が激しい状況下でも安定して価値を届けるためのアプローチであり、リーンスタートアップやデザイン思考と並んで実践的な学習を重視する枠組みだと、デイヴ氏は説明します。
一方で、多くの組織が「Water-Scrum-Fall」に陥り、年1回しかリリースできない状態や、DoRに縛られた形骸化した運用が散見されるとも述べています。そのうえで近年の大きな流れとして「アジャイル・プロダクト・オペレーティング・モデル(APOM)」への移行が進んでいると語りました。プロダクト中心のマインドセットや投資方法へと切り替えることが重要だという考えです。
また、AIの台頭により「プロダクトチームは存続するのか?」「スクラムはまだ役に立つのか?」という2つの論点も語られました。AIがデリバリー能力を大きく高める一方で、優れたプロダクトを生み出すためには「意思決定や共感といった人間固有の価値が引き続き重要」だとデイヴ氏は述べます。
そして、スクラムの本質である経験的プロセス管理、権限移譲されたチーム、継続的改善は、AI時代でも引き続き有効で、スクラムマスターはAIを活用したスクラムチームにおいて重要な役割であるという見解が示されていました。
【スピーカー】
原 秀文氏
株式会社Aoba-BBT システム開発本部 本部長
人材育成プラットフォームの内製開発に取り組む原氏は、約500スプリントを共にしてきたスクラムチームでの経験を振り返りながら、長期にわたり安定して成果を出し続けられた背景について語りました。
チームは常に顧客や課題に向き合い、「収益」「リスク」「将来価値」という3つのビジネスインパクトを定義することで、経営層やステークホルダーと共通言語で対話する姿勢を大切にしてきたといいます。さらに、スクラムで狙ったインパクトを出すためには「透明性」「小さな失敗」「早いフィードバックと軌道修正」「ふりかえりによる成長」が欠かせないと述べました。
また、チーム全員がビジネスインパクトを意識することで、ゴール設定や議論の質、メトリクスの読み取り方が変わり、メンバー全員が経営視点を持つようになったとも紹介されています。ビジネスインパクトの基盤は毎週の対話にある点も強調されました。積み重ねたインクリメントはやがて“Connecting Dots”となって価値の連鎖を生み出し、経営層からの信頼獲得にもつながっていったと語られました。
【スピーカー】
ジョン・ジョーゲンセン氏
プロフェッショナル・スクラム・トレーナー (PST)
セッションの合間には、会場全体を巻き込む大規模ワークショップも実施しました。
まずは、PSTのジョーゲンセン氏から、スクラムにおける「経験主義」の重要性とウォーターフォール型の進め方との違いを解説。その後、会場内の参加者同士で「スクラムを何のために利用するのか」「自社組織の課題は?」「組織で経験主義の3本柱を実践するためには何が必要?」といったテーマを数人ずつのグループに分かれてディスカッションしました。
Mentimeterで参加者の回答がリアルタイムに表示され、多様な意見やアイデアがあふれる場となりました。動画では参加者からの投稿もご紹介しておりますのでぜひご覧ください。
【スピーカー】
グレゴリー・フォンテーヌ氏
合同会社アゴラックス 代表取締役、プロフェッショナル・スクラム・トレーナー (PST)
PSTであるフォンテーヌ氏によって、メイン会場と同時並行で20名限定のミニワークショップも開催されました。イベント当日に参加希望を募ったところ、定員を超える参加希望をいただき急遽5名増枠することに。
市場ニーズの発見と仮説検証をテーマに、ケーススタディを用いながら仮説を立て、どのように検証していくかを体験的に学びました。証拠とリスクに応じた投資判断の考え方や、小さな実験をどのように設計するかを検討しながら、プロダクト開発における経験主義を実践的に理解できる内容となっています。
初対面の参加者同士が活発にお互いの知見を共有し、床のグラフを用いたマッピングを行うなど、会場はさながら実験室のような空間でした。
最後に「『謙虚さと好奇心、そして間違える勇気』を持って、実験者のようなマインドで課題にアプローチしていきましょう」というグレゴリー氏の言葉で締めくくられました。
【スピーカー】
西内 慶子氏
株式会社 関電システムズ ソリューション本部 テクニカルラボ DevOps推進グループ テクノロジスト(プロフェッショナル)
西内氏は、関西電力グループで2019年から始めたアジャイル推進の6年半の歩みを紹介しました。まずは現場のマインド変革と全社的な浸透が必要だと考え、体制構築やアジャイルコーチの導入、先行事例の調査、新たなガイドライン作成などに着手していきました。
一方で、社内からアジャイル希望が出ない、推進チーム自体にノウハウがない、ジョブローテーションで一体感が育ちにくい……など、多くの困難にも直面。そこで、CoEメンバーの支援を受けながら、部門キャラバンやエグゼクティブとの少人数対話、研修の拡充などを積み重ねた結果、4年目ごろから組織の姿勢に変化が表れたといいます。
最後に西内氏は、現場からアジャイルを根付かせるためのヒントとして、「現実を見る」「続ける」「生き延びる」「仲間を見つける」「自分の想いを大事にする」の5点を挙げ、まずは小さな成功から積み上げることの重要性を強調しました。
【スピーカー】
ケン・ハニグ氏
野村證券株式会社 ホールセールIT部 クライアント・サービス・テクノロジー課 ヴァイスプレジデント
野村證券でスクラムマスターとして活躍するハニグ氏と、全社的なアジャイル推進を担うアジャイルコーチの三木氏が、同社でのスクラム導入の挑戦事例を紹介しました。
取り上げられたプロジェクトは、新規事業体の決済処理を扱うもので、規制変更への対応が求められ、不確実性が高く、複数チーム・ベンダー・ビジネス部門が関わる複雑なプロジェクトでした。プロジェクト全体はウォーターフォールで進む一方、ハニグ氏が担当した一部のチームにスクラムを導入した結果、予定より早い完了につながったといいます。
実践から得た学びとして、Jiraによる進捗状況の透明性の確保、タイムボックスへの意識がもたらす効果、デイリースタンドアップで本質的な議論に集中する工夫、バックログへの情報集約による負荷軽減などが挙げられました。こうした知見を組織全体で共有し、スクラムをチームのあり方や価値創出を高める基盤として広げていきたいとの展望も示されました。
すべてのセッション終了後には、立食形式でのパーティーを実施しました。
パーティー中には「こんな人と話したい」といったリクエストがあれば、司会が発信して積極的におつなぎをする試みも。
登壇者の方々も交え、ベンダーやアジャイルコーチとして顧客の開発を支援している方、事業会社にてアジャイルの取り組みを先導中の方など、様々な役割を担う参加者が垣根なく交流を楽しみました。
参加者の皆さまからのリアルな感想や各セッション・ワークショップの様子は、こちらからもご覧いただけます。
https://posfie.com/@itpreneursjapan/p/iBj5eYm
ITプレナーズは、今後もアジャイル・スクラムに関心のある方、実践中の方を支援し、国内におけるスクラムの活動をますます盛り上げていけるような情報提供や取り組みを行ってまいります。アジャイル・スクラムの組織浸透や人材育成に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
Scrum.org™は、スクラムの共同開発者であり、「スクラムガイド」の著者として知られるKen Schwaber氏が2009年に設立した団体です。スクラムの原則とアジャイルマニフェストに基づいて、ソフトウェア開発のプロフェッションを向上させるためのトレーニング、アセスメント、認定試験などの包括的なサービスを提供しています。世界中で、Scrum.org™のソリューションとプロフェッショナルスクラムトレーナーのコミュニティが、スクラムを通じてアジリティを実現するために人々や組織を支援しています。