デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が日に日に増していく昨今、「DXを始めるにあたって、何から手を付けて良いのか分からない」という悩みを多く聞きます。
DX推進は一度に進めるのは難しく、段階を踏んでいく必要があります。また、DXの取り組みを始めた直後は理想と現実の差の大きさに悩まされ、その差が大きいほど、優先度がわからなくなってしまうことがあります。 そういった場合に、有効な手法が「Value Stream Mapping(VSM)」です。
「Value Stream Mapping(VSM)」とは、トヨタ生産方式の「モノと情報の流れ図」を元に開発された業務フロー/プロセスを可視化する手法です。顧客に価値を創出する一連の工程の全体像をステークホルダーが集まって作成し、価値の流れ(バリューストリーム)を理解し、できあがったものを一同で俯瞰的に見ることによって、現状把握や課題発見を行います。
VSMによって、業務フローを可視化・改善し、DX推進を段階的に進めるにあたって初期に必要となる業務の最適化を図ることができます。そして、どの活動が「顧客の視点から一番効果が高いか」を考え、優先順位を決めることもできます。
また、製品・サービスに関わる全員が参加してVSMに取り組むことで、一体感・連携感を強化し、その場で意思決定も可能になります。さらには、ゴールイメージを共有し、それぞれの仕事に対して顧客の価値を意識できるというメリットもあります。
ITプレナーズは今後、このVSMの作成・分析を実際に体験できる「VSMワークショップ」を、株式会社ビジネス・ブレークスルーと共同開発した異業種参加型のオンラインプログラム「DX推進基礎講座 – 業務の視点から考える-」の一環として提供していきます。
2021年5月21日(金)に開催したイベントでは、このワークショップを先行して18名の方々に体験していただきました。ワークショップはZoomを活用してオンラインで行われ、日本全国から、食品・不動産・建設・銀行・メーカー・ITなど、様々な業種の方にご参加いただきました。
講師は、クリエーションライン株式会社から荒井 裕貴氏と笹 健太氏のおふたりが担当されました。同社は、DXの実現を支援するコンサルティングサービスを提供しており、今回のVSMワークショップもサービスの一環としています。これまでVSMを使った改善施策により、システム開発におけるリードタイムの70%短縮などを実現しています。
今回実施した、VSMワークショップの中身をご紹介します。
最初に、VSMの目的や効果、そして各工程について、荒井講師から詳しい説明をいただきます。多様な業種の方にも伝わるよう、ITに片寄らず、身近な例を用いてわかりやすくお話しいただきました。
説明を聞いてVSMについてしっかりとイメージを持てた後に、参加者が手を動かす演習の始まりです。
実際に集まってVSMを書く場合はホワイトボードと付箋を使いますが、今回はオンライン開催のため、代わりに「Mural(ミューラル)」というオンラインホワイトボードツールを用いました。
ツールに慣れるために、本格的な演習に入る前の準備体操として、Muralを使った「お絵かきしりとり」をグループに分かれて行いました。参加者全員がMuralの使用は初めてだったため、最初は使い方に戸惑う方もおりましたが、次第に慣れてくると和気あいあいとした雰囲気で交流が進みました。
ツールに慣れたところで、いよいよVSMの演習です。まずは「プロセスのリストアップ」から始まります。
通常、VSMは「製品の製造工程」や「お客様の購入までの流れ」など実際の業務をテーマとして行いますが、今回は様々な業種の方が参加されているため、共通でイメージを持ちやすいように「引っ越しした後の市役所での手続きプロジェクト」がテーマとなりました。
テーマについてグループで話し合いながら、引っ越した後に必要となるプロセスを次々と挙げていきます。まず「市役所に行く」ことから、「転出届の提出」「免許証の住所変更」「ペットの登録」など、参加者によって付箋がどんどん貼られていきました。
なお、今回はオンラインのワークショップでしたが、Zoomの「ブレイクアウトルーム機能」を使うことで、それぞれのグループに分かれての会話が可能となりました。各グループのセッションには講師が出入りして、進捗を確認しながら適宜必要なアドバイスやファシリテーションを行い、演習を円滑に進めていきます。
プロセスのリストアップが終わると、次はいよいよVSMを書く演習です。
左上にスタート、右上にゴールを書き、先ほどリストアップしたプロセスを並べていきます。その際に不要なものを整理し、必要なものを追加し、書き方の粒度も調整します。
そして、プロセスを線でつなぐと、各工程にかかる「リードタイム」と「プロセスタイム」を記入します。「リードタイム」は工程が開始されてから次の処理に移るまでの全体時間を意味し、「プロセスタイム」はその工程のうち実際に手を動かしている時間を意味しています。
そのあと、各工程をグループに分け、リードタイムとプロセスタイムそれぞれの合計値を出します。これでVSMの完成です。
最後に、完成したVSMを見ながら業務分析を行います。ここからが、重要な「価値無価値分析」です。
自動でできる作業が手動になっているところ、待ち時間が長いところ、など8つのポイントに基づいて、無駄と思う箇所をマークしていきます。また、自動化可能なものに関しては、黄色い付箋でアイデアを貼っていきます。
今回のテーマである「引っ越しした後の市役所での手続き」について、各チームで改善案が次々とあがりました。「書類の記入は事前に家でできるようにしたら?」「オンラインの窓口を設けるのはどうか?」といった工程ごとの改善案から、「そもそも市役所に行かなくても、すべてネットで済むのでは?」といった大胆なアイデアも生まれました。
こうして、自動化・省力化を進め、新たな改善を考えることで、DX推進へと繋がっていきます。
以上で、ワークショップは終了です。最後に、参加者それぞれが「やったこと」「良かったこと」「学んだこと」「実際の業務ではどこでVSMを活用できそうか」をしっかり振り返り、Mural上に記載していきました。
様々な業種の方が参加された今回のワークショップでしたが、参加者18名全員が実施後アンケートで「大満足」もしくは「満足」と回答するという、非常に高い評価をいただきました。さらに、次のような感想もいただいております。
「プロセスを分解して、こうすれば便利になるという箇所を明確にしていくことで、DXを推進する際にどのようなところに目をつければいいのかがわかりやすくなる」
「ただの効率化ではなく、価値を見直すことで、みんなが同じ方向を向けるワークショップだった。今後の業務に絶対に活かしたいと思う体験ができた」
「全体を俯瞰しながら、ポイントを見られるので、取り組みやすかった」
4時間という短時間のワークショップでしたが、VSMが業務プロセスの改善に活かせること、DX推進の足掛かりとなることを、参加者の皆様には実感していただけたと思います。また、オンラインでも実際に集まったかのようなワークショップを体験できたこと、Muralというツールを使ったことに対しても、好評の声が多く寄せられました。
このVSMワークショップは、ITプレナーズがビジネス・ブレークスルーと共同開発した異業種参加型のオンラインプログラム「DX推進基礎講座 – 業務の視点から考える-」の中に含まれます。ビジネス・ブレークスルーが提供する「デジタル・トランスフォーメーション -企業はいかにデジタル変革を行うか-」「DX成功のための業務プロセス再構築」等の講座視聴と合わせて、本ワークショップで実際に手を動かすことで、より実務に活かせる学びが得られます。
ぜひDX推進の第一歩として、VSMワークショップをご活用ください!
DX推進に必要な基本知識や推進事例を学ぶとともに、DX推進に取り組む実践的なスキルを習得します。
主な受講対象者
得られる学び・効果