アサヒグループのITパートナーとして、営業・販売・生産・物流などのシステム開発から運用までをワンストップで手がけるアサヒビジネスソリューションズ株式会社。グループ全体のDX推進も支援する同社ですが、アプリケーション開発はウォーターフォール型が主流であったことから、開発スピード、柔軟性、開発後の運用効率など、さまざまな点で課題を抱えていました。
グループ各社からの要望にスピーディに応えるべく、短いサイクルで開発を繰り返すアジャイル開発へのシフトに舵を切った同社では、まずDevOpsの概念を学ぶためにSB C&S株式会社が提供する短期教育プログラム「DevOps-ABC」を2022年6月と7月に受講しました。
DevOps Agile BootCampの略称であるDevOps-ABCは、SB C&Sとヴイエムウェア株式会社が共同で企画し、ITプレナーズも開発に参画した教育プログラムです。5日間のプログラムのうち、ITプレナーズは組織やマインドセットの変革を体験型学習で学ぶ1日目の「フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修(以下、フェニックスプロジェクト研修)」と、2日目に行うDevOpsの基礎を習得するコースを担当しています。
今回はDevOps-ABCの受講をリードした技監の上條真史様と、プログラムを受講した開発部門の塩田弘毅様、内田一樹様に、受講までの経緯と学びから得た気づきについてお話をうかがいました。
当社はアサヒグループ各社のIT戦略を支援する情報サービス会社です。1989年にアサヒビールの情報システム部門が独立し、その後はCRCソリューションズ(現、伊藤忠テクノソリューションズ)との業務提携などを経て、現在の体制になりました。社員数は2021年4月1日現在で145名となっています。
アサヒグループのDX戦略において、ITインフラを中心とした後方支援の役割を担う私たちは、2020年から進めてきたクラウドシフトを拡大する目的で、2022年4月に社内横断組織(CoE)を立ち上げました。社内から有望な人材をスカウトしたり、公募したりしながらチームを編成し、現在は約40名体制で運営しています。
CoEを立ち上げたものの、現在のレガシーなシステムは保守運用にコストがかかり、変化に対して柔軟な対応ができない点に課題を感じていました。個別の開発に依存していたことから品質の維持が困難で、開発後の運用にも負荷がかかります。そこでアジャイル開発へシフトし、開発や運用を効率的に進めるためにDevOpsの概念を取り入れようと考えたのです。
とはいえ、私たちの組織にはDevOpsのノウハウがありませんので、まずは概念を正しく理解することから始めようと、取引先のパートナー各社に相談したところ、ヴイエムウェア社から「DevOps-ABC」を紹介されました。他のパートナーからは個別の研修やコンサルティングの提案もありましたが、DevOps-ABCは5日間のプログラムの中で、DevOpsの基礎から実践的な開発手法を学ぶハンズオンまで、変化対応力を高めるためのプログラムが網羅されていたことから受講を決めました。
推奨受講人数が10名ということでしたので、まずCoEのメンバーから希望を募ったところ、私を含めて7名が集まりました。その後、CoEのメンバー以外の3名が手を挙げたため、合計10名で参加することにしました。年齢は30代を中心に20代から50代まで幅広く、担当する業務領域も開発、サポート、マネジメントなどバランスがとれたメンバー構成になったと思います。
私自身、アプリケーション開発からその後の運用まで一通りの経験があり、実務でもDevOpsのことは意識していました。しかし、開発したアプリケーションを運用チームに引き継いだ後、機能追加の際に連携上の高い壁があることを実感していましたので、その解決策を探るためにDevOpsを理解したいと考えました。
DevOpsについては漠然とした知識はあったものの、実務で経験したことがなかったため、まずはDevOpsの理解を深めてから自分のプロジェクトで展開してみたいと思って参加しました。
最も大きなインパクトがあったのが、1日目のフェニックスプロジェクト研修でした。参加者全員に社長、IT責任者、財務責任者、開発者、運用者などのロールを割り当て、4つのラウンドの中で課題への対処、振り返り、改善のサイクルを回しながら、実務の精度を高めていくRPGゲームのような体験型の研修です。
初日終了時点で、メンバー全員が縦割りの組織の中でウォーターフォール開発を行っている自分たちの現状に危機感を覚えて、「開発チームと運用チーム、IT部門と業務部門といった横の連携を意識しなければいけない」と強く思うようになりました。初日でモチベーションが大きく高まったことで、2日目のDevOpsアウェアネスコースも高い熱量を持って取り組むことができました。
フェニックスプロジェクト研修が始まって最初のラウンドを終えたとき、それなりの手応えがあったにもかかわらず、結果は芳しくないものでした。講師の方からも「これが皆さんの組織の現状です」と指摘を受け、自分たちがいかに縦割りの組織に縛られてきたか、自分本位でしか物事を考えてこなかったかを反省することになりました。
そこで奮起して、2ラウンド目では講師の方にヒントをいただきながら課題に取り組んだところ、3ラウンドと4ラウンドで大きく盛り返すことができました。この研修を通じて参加者全員がDevOpsの世界を実体験として知ることができ、これから自分たちがやるべきことの指針が見えてきたと思います。
私にとってもフェニックスプロジェクト研修は印象的でした。普段の業務でも納期やコストを意識しながら仕事に取り組んできましたが、実際に研修を受けてみて、将来を見据えた投資の判断や人材育成がいかに重要であるかを再認識しました。
座学でDevOpsの基本を学びながら、ディスカッションを多く取り入れた研修でした。1日目で意識が高まっていたこともあり、グループディスカッションでは本音をぶつけ合えたと思います。
知識を学ぶというより、まずDevOpsの概念を体感するといった感覚で、ITの深い知識がなくても理解できる内容でした。講師は1日目と同じ方でしたが、厳しい中にもユーモアがあって、楽しみながら受講することができました。
ディスカッションの中で、技術者間の情報共有にwikiやブログを使っていることについて、一方通行の情報発信では何も伝わらないのではないかといった指摘を受けました。そこで、受講後に現場に戻ってからは新たなコミュニティを立ち上げて、双方向でディスカッションするようになり、横方向の連携を以前よりも意識するようになりました。
「組織とは」「チームとは」「プロジェクトとは」といった、日常の業務ではなかなかじっくり考える機会が持てなかったテーマに取り組むことで、開発における自らの役割を見直すきっかけになりました。
普段の業務では個人の責任で動くことが多い中で、メンバーと一緒に考えること、提案型で仕事を進めていくこと、成果物を残していくことの重要性がわかりました。また、自社だけでなくアサヒグループが全体で取り組むことで、グループ全体のマインドセットが変わり、より良い仕事ができるのではないかと考えるようになりました。
受講後に参加者に対して実施したアンケートでは、全員が「DevOpsの基礎がよく理解できた」「何かしらの気づきがあった」と回答しています。具体的には、「縦割りの考え方から脱却することが重要」「属人化はできるだけ早期に解消していく必要がある」「振り返りによる改善の継続が重要」「目的意識や考え方を組織に浸透させる」「組織・チームとしての文化と同時に、個人の主体性が大切」といった回答がありました。
これまであまり人に頼らないで自力で仕事をしてきましたが、受講後は横を意識して仲間に相談しながら進めるようになりました。すべてを短期間で変えることは難しいと思いますが、少しずつ理想に近づけていけたらと思っています。
開発現場に戻ってからは、上流工程の段階からメンバーと積極的にコミュニケーションをとることを心がけ、計画の策定から注力するように意識が変わりました。
CoEチーム全体としても、横の連携を意識して情報を共有し、みんなで会話しながら課題に取り組むようになり、組織や文化に変化が生まれつつあることは間違いありません。CoEチーム以外から研修に参加した3名のうち、2名が新たにCoEチームに参加して精力的に活動を始めるといった副次的な効果も現れています。
私たちにとっては組織や文化の変革に向けて背中を押してくれる研修でしたので、IT・開発部門でなくても、組織が良い方向に変わるきっかけをつかみたいチームや企業には、まず受講してみることをお勧めします。
受講後のアンケートでも、参加者のほとんどがDevOpsの社内導入に大きな期待を感じていることがわかりました。進行中の開発・運用案件でも、積極的に導入を進めていきたいと思います。
また、アンケートではすべての参加者が「他のメンバーも積極的に参加してほしい」という回答を寄せていました。そこで、最もインパクトのあったフェニックスプロジェクト研修を社内の教育プログラムに組み入れてみて、一般社員の中でどういった化学反応が起こるかを確認しながら、組織文化の変革に取り組んでいきたいと思います。
社名 アサヒビジネスソリューションズ株式会社
業種 情報通信
創立 1988年4月
資本金 1億1千万円
従業員数 社員 145名(2021年4月1日現在)
ウェブサイト https://www.n-ais.co.jp/
DevOpsの原則を適用し、多大な改善と事業価値を達成するために課題やチャレンジに立ち向かう組織を描いた革新的な書籍 「The Phoenix Project」(Gene Kim、Kevin Behr、George Spafford著)をベースに構成されており、 参加者自らが書籍の流れを体験し、どのようにDevOpsを実務環境に適用するかを実践的に学ぶことが可能です。
本コースは、国際的なDevOpsおよびAgileの認定機関である、DASAのコンピテンシーモデルに基づいた設計になっています。
※取材は2022年12月に行いました。