事例紹介

部署の壁を越えた“ワンチーム”の協働へ──DevOps体験研修がもたらした意識と行動の変化

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター様
研修事例
2025.11.12

沖縄県のIT産業振興を担う第三セクターとして、県内企業や自治体のDX支援を行っている一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(以下、ISCO)。

組織の拡大とともに、部署間の連携や情報共有の難しさが課題となる中、同団体ではITプレナーズが提供する体験型ワークショップ「フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修(以下、フェニックスプロジェクト)」を受講しました。

この研修では、物語に沿って進むシミュレーションを通じて、参加者がそれぞれの役割を担いながらチームで課題解決に取り組みます。IT職種に限らず、業務部門などの方でも学びやすく、チーム連携や改善の考え方を実感をともなって学べるのが特長です。

実際に今回の受講者はIT職以外の方が多かった中、DevOpsを体感する本研修を通じてどのような学びと変化があったのでしょうか。研修を受講した金城さん、久野さん、そして研修の運営を担当した上地さん、仲田さんにお話を伺いました。


フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修

  • 部署間の分断や情報共有の難しさを解消し、協働を促進するため
  • DX推進・業務改善に向けたチーム連携の考え方を学ぶため
  • 「組織の壁を越える」意識を広げるため
  • 個人完結の視点から、チーム全体で課題を捉える意識へと変化
  • 協働相手との情報共有やコミュニケーション機会を意識的に増やすように
  • 自ら動き、相手の立場を理解して連携する姿勢が身に付く

「組織の壁を越える」をテーマに、各部署から受講メンバーを募り受講

──まずは、貴団体の事業内容と皆さまのご担当業務について教えてください。
上地さん

ISCOは、沖縄県のIT産業振興を担う第三セクターとして、2018年に設立された団体です。県内企業のDX支援やスタートアップ支援、産学官連携によるイノベーション創出などを行っています。また、1万人規模のIT・DX展示商談会「ResorTech EXPO in Okinawa」をはじめとしたイベントの主催も手がけています。私はその中で、人事労務と人材育成の統括マネージャーを務めております。

仲田さん

私は上地と同じ部署に所属し、組織の人材育成をメインとして、社内向けの研修の企画や運営などを主に担当しています。

金城さん

私は、「沖縄DX推進支援事業補助金」の事業部門にてプロジェクトマネージャーを担当しています。DX関連の補助金としては国内トップクラスの補助率を誇り、毎年およそ10件ほどの企業が採択されています。採択後、各企業に対してデータを活⽤した業務効率化やビジネス変⾰、業界の課題解決に向けた支援を行っています。

久野さん

私は、沖縄県市町村のDX支援部門にてプロジェクトマネージャーを担当しています。県内自治体のDX推進に向け、情報システムの標準化・共通化を中心に、ベンダー企業と協力しながら伴走的な支援を行っています。

──今回、ITプレナーズの研修を受講された背景について教えてください。
上地さん

もともと、DX推進や業務改善に必要な体系的な知識を学べる研修を探していました。その中で、ITプレナーズが提供する「フェニックスプロジェクト」という印象的な名前の研修が目に留まったんです。

 

ISCOでは、組織の拡大に伴い、部門やプロジェクトを越えたノウハウ共有が難しくなってきており、部署間の壁やコミュニケーションロスが課題となっていました。この「フェニックスプロジェクト」は、組織内の分断を乗り越えて協働を生み出すことをテーマにしたワークショップであり、まさに私たちの課題意識と重なっていると感じ、実施に至りました。

 

今回は「組織の壁を越える」ことを一つの目標に掲げ、各部署から1名ずつ受講者を選出。特にプロジェクトマネージャー職や、経験が浅いメンバーを中心に構成しました。

大失敗を乗り越えて、お互いに声を掛け合う“ワンチーム”な雰囲気へ

──フェニックスプロジェクトでは、受講者12名が一つの企業内の各役割を担い、様々なミッションに取り組みながら目標達成を目指します。当日はどのような体験になりましたか?
久野さん

全4回のラウンドを繰り返す中、ラウンド1は特に苦戦しました。私を含め全員がルールを理解しようとするものの、ミッション達成に必要な業務の流れやチームとしての全体像がまったくつかめず、低いスコアで終わってしまいました。

金城さん

特に受講者間の情報共有がうまくできておらず、ラウンド2でも大きなミスをしてしまいました。「このままでは大失敗に終わるのでは」と、チーム全体の空気が一気に重たくなったのを覚えています。

 

ただ、そのときに特定の個人を責めることはありませんでした。問題の根本原因は誰か一人の責任にあるのではなく、仕組みの中で確認プロセスが欠けていたという認識が共有でき、チーム全体の課題として考えようという空気が醸成されたんです。

 

もしあのとき「なぜ〇〇さんはできなかったの?」といった個人への指摘が出ていたら、チームの輪は乱れていたかもしれません。そうではなく「前後の工程でお互いにチェックしよう」と声を掛け合うようになったことで、チームワークがぐっと良くなりました。

 

久野さん

実際の現場でも、誰かがタスクを忘れたりミスをしたりすることはあります。そのときに本人だけではなく、周りも一緒になって「どうサポートできるか」と考えることが大事だと改めて感じました。

 

ラウンド3以降は、業務の受け渡しや情報共有の方法を見直し、チーム全員で一つの目標に向かって行動できるようになりました。共通の目標を意識する中で、自然と「どうすればもっと良くできるだろう」と意見が交わされ、互いの前向きな姿勢がチーム全体の推進力につながっていったと思います。

──チームとして動く中で、特に印象に残っている学びや気づきはありましたか?
金城さん

当日は、架空の会社の経営層役を担当しました。最初は業務の流れや各メンバーのキャパシティが見えず、ミッションを遂行できるのか、トラブルが並行して起こった際にどれを優先すべきか、判断が難しかったです。

 

ですが、情報共有の方法を見直したことで「どれだけの工数がかかるのか」「誰にどれくらい余力があるのか」が可視化され、経営者の立場から意思決定がしやすくなりました。結果的にチーム全体がうまく回るようになり、限られたリソースの中で優先順位をつけることの重要性を実感しました。

 

久野さん

企業活動においては、利益や売上の追求だけではなく、品質や会社の信頼性を担保することも欠かせません。加えて、利益に今すぐ直結しない未来への投資なども必要になります。それをゲームという形で体験しながら、会社の動きを改めて学べたのは非常に興味深かったですね。経営的な視点が少し広がったように感じました。

 

──人材育成を担当されているお2人は、研修中の様子をどう見られましたか。
仲田さん

最初の混乱は想像以上でした。ラウンド2での失敗で場の雰囲気がさらに沈みかけましたが、そこから「何とかしないと」という意識が全員の中に自然と生まれたように感じます。お互いにコミュニケーションを取り始め、動いて情報を取りに行こうとする姿勢が出てきてから、一気に空気が変わりましたね。

 

大事なポイントは、やはりお互いへの声かけだったと思います。「大丈夫?」というフォローだけでなく、「次はこうしてみよう」と改善提案を出し合う様子が見られるようになってからは、ゲーム上の成果も連動して高まっていったんです。

 

その後のラウンド3、ラウンド4では、まさに“ワンチーム”と呼べるような一体感が醸成されていました。

 

上地さん

最初は、ゲーム上で発生する困難やトラブルに対し、個で打開しようとする姿が見られました。普段の業務でも「自分の担当をこなす」進め方が中心なので、その延長だったのかもしれません。

 

しかし、ラウンド2で思うような成果が出なかったことをきっかけに「今のやり方ではうまくいかない」とチームの意識が変わっていきました。普段あまり発言しない人も積極的に発信するようになり、互いにサポートし合う雰囲気が生まれたのは大きな変化だったと思います。こうした連携を生み出せた経験は、きっと今後の仕事にも活きるに違いないと感じました。

当日の研修を終えての集合写真

「自ら動く」「情報共有で同じ認識を持つ」学びから実務への適用

──研修で得た学びを、実際の業務にどのように活かしていますか。
久野さん

自業務に集中していると、全体の流れや他の役割の動きが見えにくいことがあります。これまでは、自分にタスクが回ってくるまで待ってしまう場面もありましたが、研修を通じて「わからないままで止まるのではなく、自分から情報を取りに行くべきだ」と強く感じました。今では、積極的に周囲とコミュニケーションを取るようにしています。

 

また、業務で関わる相手に対しても、より意識を向けるようになりました。相手には相手が抱えるタスクや事情があります。その前提を踏まえて、一方的に働きかけるのではなく、目線を揃える意識で話すようになりました。よりスムーズに連携できるように、社内外の関係者との関わり方を少しずつ変えているところです。

 

金城さん

業務連携をよりスムーズにするために、情報共有や相談の機会を意識的に増やしていく必要があると感じています。研修を通じて、今年新しく入ったメンバーに対し、私やベテラン陣が業務の全体像や経緯をきちんと伝えられていたかを振り返る良いきっかけになりました。

 

今後は、各メンバーの役割や担当業務の背景を丁寧に共有し、チーム全員が同じ理解のもとで動ける環境を整えていきたいと思っています。

──今回の学びを、人材育成や組織づくりにどのように活かしていきたいと考えていますか。
仲田さん

私たちが関わる事業は、国や地方自治体からの受託案件が多く、あらかじめ定められた計画や手順に沿って進める必要があります。そのため、どうしても「ウォーターフォール型」の進め方になることが多いのですが、今回の研修を通じて、受講メンバーの姿勢が変わっていくのを見て、「私たちの組織でもDevOpsのエッセンスは活かせる」と実感しました。

 

日々、小さな改善や挑戦のサイクルを意識的に取り入れていき、より効果的なプロジェクト運営とチームづくりを進めていきたいと思います。そして、私たちが支援する自治体や地元企業の皆さまとともに、ITの力で変革を生み出していけたらと考えています。

 

上地さん

今回の研修で得た「状況に応じて柔軟に考える姿勢」は、ぜひ現場でも活かしてもらえたらと思います。一方で、今回のような気づきを参加メンバーだけが持っていても、組織全体としての変化にはつながりません。だからこそ、全体で同じ意識を共有し、取り組むことが大切だと強く感じています。

 

また、アジャイルやDevOpsに関する共通の知識を組織として持つことも重要です。体系立てて学んだ上で、アジャイル的な進め方に慣れていけば、さらに大きな効果が生まれるのではないかと思います。

担当講師からひとこと

岩村 琢講師

開始直後はやや緊張した様子もありましたが、ワークが進むにつれて積極的なコミュニケーションが生まれ、部署を越えたやり取りが増えていきました。単にゲームを成功させるのではなく「改善につなげたい」という前向きな意識が醸成されていたように感じます。

途中で大きなミスが起きた際も、個人を責めるのではなく、仕組みとして課題を見直し、チームでカバーし合う前向きな雰囲気に切り替えられたのが印象的です。

ITが専門でない方も多かったため、用語や概念を丁寧に補足しながら進行しました。ITに馴染みのない層に対しても十分な気づきや学びを提供できたと実感しています。この経験が今後の働き方の変化や、組織横断の連携促進につながることを期待しています。


お客様情報

社名 一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター
業種 情報通信・産業振興支援など
創立 2018年5月1日
出捐金 3億5500万円
ウェブサイト https://isc-okinawa.org/

フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修

ビジネス推進の鍵となる部門間のコラボレーションを、ゲーム形式で楽しく、手を動かしながら実践的に学べる研修です。

短期間で新サービスをリリースしなければならない危機的な状況にある組織が、さらに様々な困難に直面しながらも、チーム間の連携で成功への道を切り開いていく書籍「The Phoenix Project(邦題:The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー)」をベースにしています。

研修では、物語の流れに沿ったシミュレーションを通じて、参加者自身がビジネス部門・開発部門・運用部門に分かれて役割を担い、チーム間のコラボレーションや次々と発生する課題への対応を体験できます。


※取材は2025年10月に行いました。

取材・文:Yui Murao