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複数のサービスを管理する「SIAM™」とは?

2023.6.6

近年、多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組むなか、SIAM™は、複数のサービスプロバイダから提供されるサービスを統合する手法として注目されています。

サービスマネジメントの強化によって、リスクを適切に管理できるだけでなく、サービス品質と顧客満足度の向上も期待できます。

今回の記事では、そんな「SIAM™(Service Integration and Management)」について、ITプレナーズ取締役でSIAM™研修の講師を務める最上千佳子がわかりやすく解説していきます! 

※この記事は、2022年5月~2023年2月にウェブサイト内に掲載した連載「SIAM™ はじめの一歩」の内容を再編したものとなっています。

著者紹介

株式会社ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック
最上 千佳子

システムエンジニアとして提案、設計、構築、運用、教育など幅広く経験。2008年、ITサービスマネジメントの教育とコンサルティングを行うオランダQuint社の日本法人、日本クイント株式会社へ入社。ITIL® 認定講師として多くの受講生を輩出。2012年3月、代表取締役に就任。ITSM、リーン、アジャイル、DevOps等、ITをマネジメントにより強化しビジネスへ貢献するための、人材と組織の強化に従事。2022年4月日本クイント株式会社は、BBTグループの株式会社ITプレナーズジャパン・アジアパシフィックと統合。
著書:「ITIL® はじめの一歩 スッキリわかるITILの基本と業務改善のしくみ(翔泳社)」「ITIL®4の教本 ベストプラクティスで学ぶサービスマネジメントの教科書(翔泳社)」

サービスの統合によって、お客様により高い価値提供を目指すのがSIAM™

SIAM™(サイアム)とは、サービスを統合しマネジメントするために必要となるスキルや能力、ガバナンスやマネジメント、組織などについてまとめた知識体系のことを言います。“Service Integration And Management” の4つの英単語の頭文字からなる言葉です。

どんなものかイメージしづらいかもしれないので、少しかみ砕いて説明しますね。

SIAM™の“I”(Integration)は「統合」を意味します。言葉が表す通り、サービスが複数あることが前提になります。さらに、複数の異なるサービスプロバイダから提供されていて複雑な場合に、SIAM™は特に有用な内容となっています。

SIAM™の“M”(Management)は直訳すると「管理」ですが、単にサービスを取りまとめておく、という意味だけではありません。複数のサービスを一度統合したら終わりではなく、「改善し続ける」、つまり長い目で見て考え行動するための仕組み作りも大切なわけで、SIAM™ではそれについても言及されています。

SIAM™が目指しているのは、サービスの利用者(つまりお客様)に真の意味で高付加価値なサービスを提供することであり、統合はそのための手段です。

そもそも、「サービス」って何?

文中に登場した「サービス」とは、どのような意味を持つのでしょうか?

水道・ガス・電気を利用する、喫茶店を利用する、スーパーマーケットで買い物をする、ATMでお金を引き出す、映画館に行く、清掃されたオフィスに出社する、リモートワークでお客様とオンラインミーティングをする、夕飯にピザのデリバリを注文する…。

私達が快適に生活するうえで欠かせないものがサービスです。もしこれらのサービスが使えなくなったり、品質が悪かったりすると、非常に困りますよね。だからこそ、価値ある高品質なサービスにこそ、私達は対価を支払いリピートするのです。

提供されるサービスは、一つのサービスや一つのサービスプロバイダで完結していることはほぼありません。多くのサービスは、複数のサービスプロバイダによる複数のサービスから構成されているのです。

言い換えると、多くの企業と人が関わり合いながら、最終的に一つのサービスとして提供していることになります。つまり、お客様に対して常に価値あるサービスをお届けするためには、それら全体をうまくコーディネートして管理していかなくてはいけないということですね。

SIAM™は、その状態を実現するために生まれた知識体系です。

「複数のサービスからなるサービス」とは、どういうこと?

「多くのサービスは、複数のサービスプロバイダによる複数のサービスから構成されている」と言われても、まだイメージしづらいかもしれません。

そこで、オンラインショッピングのサービスを例に挙げてみましょう。サービスと一口に言っても、以下のように実はさまざまなサービスから成り立っているとわかります。

  • 商品の検索や注文ができるWebサービス
  • 商品の検索や注文ができる携帯アプリケーションのサービス
  • これらサービスを支えるデータベースやクラウドのサービスおよびサポートサービス
  • 出店している各ショップが受注した商品を確実に出荷するサービス
  • 商品についてのお問合せ対応サービス
  • 運送会社等による配送サービス
  • 配送状況の検索や再配達、変更等が行えるWebサービス

オンラインショッピングサイトを運営する企業が、単独でこれら全てのサービスを網羅していることはありません。複数の企業(サービスプロバイダ)と適切に提携してサービスを提供しているケースがほとんどです。

サービス利用者は、サービスのどこかに綻びがあると(たとえ一部のサービスプロバイダに依存する不具合だとしても)、サービス全体に対しての満足度が下がるでしょう。だから、統合して管理することが重要なのです。

サービスを統合するのは誰?

ここまで、企業はお客様により良いサービスを提供するために、そのサービスを構成する複数のサービスを統合・管理することが大切だとお伝えしました。

複数のサービスを統合する「サービスインテグレーション」を実施する役割を、SIAM™では「サービスインテグレータ」と呼びます。サービスインテグレーションを専門に行う企業であるかのような印象を受けるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

サービスインテグレータとなる組織や人には、以下のようないくつかのパターンが挙げられています。

  • サービスの総責任を持つ部署
  • サービスインテグレーションに特化する社内の専門部署(または総責任部署との連合組織)
  • コンサルティング会社等の外部組織
  • 複数の外部サービスプロバイダの一つ(主要なサービスプロバイダ)

 

どれが正解というわけではなく、戦略と能力に応じて適切なサービスインテグレータを決めていくことが大切です。

とくにITサービスの場合、企業の事業部門はITサービスのインテグレーションや技術についてどこまでリソースをかけるかは戦略的に判断する必要があります。たとえば、社内のIT部門(情報システム部門)にサービスインテグレータを任せることも一つの方法です。

SIAM™の具体的な活用場面は?

SIAM™の活用場面はさまざまですが、複数のサービスプロバイダが関係する重大なインシデントが発生した際に、それら関係者が迅速に協力して切り分けや調査・分析を行うような協力体制を構築するときなどに有効です。

例えば、オンラインバンキングのサービスにアクセスできなくなってしまったとします(=インシデント発生)。故障箇所は、ネットワークかハードウェアかOSかデータベースかアプリケーションか…瞬時にはわかりません。

とくにITサービスでは、それぞれ異なる企業が管理責任を負っていることが多く、互いに「自社の責任範囲だと分かるまでは対応しない」というスタンスを取る傾向にあります。なぜなら、責任範囲におけるインシデント発生時の目標解決時間を合意しており、遅延するとペナルティ(損害賠償)が発生することもあるからです。

また、賠償沙汰にならなくとも、コスト低減の観点から「自社の責任範囲外であれば対応したくない(工数をかけたくない)」という心理になることが往々にしてあります。これは、サービス利用者や事業部門(ここでは銀行事業)からすれば受け入れがたい状況です。

これを解消するために、SIAM™では「ワーキンググループ」や「統合インシデント管理プロセス」などが提唱されています。

SIAM™を学ぶとよいのは誰?

SIAM™は、とくに以下のような役割を担う人に有用なフレームワークです。

購買部門

購買部門では、複数のサービスプロバイダ(協力会社、サプライヤ、パートナーとも言われます)との取引を行うため、SIAM™の考え方は非常に役に立ちます。

IT部門やサービスの主管部門

「SIAM™の歴史」で説明した通り、SIAM™は元々はIT部門が複数のITサービスとそのプロバイダを管理するために誕生した考え方です。また、IT部門に限らず、サービスの主管部門では、そのサービスを構成する複数のサービスとそのプロバイダを統合的に管理するためにSIAM™を参照することをお勧めします。

IT企業やコンサルティング企業

能力と実績があるIT企業は、マルチベンダ環境においてプライムベンダとして他の企業(サービスプロバイダ)を取りまとめるような役割を担っていることが多いでしょう。

その活動をより根拠を持って価値付け、「必要に駆られて最低限実施する」から「より高い価値をお届けするためにしっかり実施する」へと昇華するためにSIAM™を参照することをおすすめします。

このような「サービスの統合」という観点での課題解決を行うという意味で、コンサルティング企業にとっても、SIAM™は有用な情報源となります。

SIAM™を企業が学ぶメリットとは

お客様(サービス利用者)が幸せになる

SIAM™は、お客様にとってサービス全体の価値が出るようにするためのものです。

喫茶店の例で言えば、お客様は喫茶店に入店し、美味しいオムライスを食べ、インターネットや読書など自分の好きなように快適に時間を過ごし、気持ちよく支払いを済ませてお店を後にしたいですよね。そのためには、これらを構成する各サービスがしっかり管理されているとともに、全体としても調和がとれている必要があります。

サービスの責任者も幸せになる

ここでいう「サービスの責任者」は、サービス全体の責任者(喫茶店のマスター)も、各サービスの責任者も両方を指します。

「お客様が幸せになるために」という共通の目標のために、各サービスがどのように管理され、どの部分は協調すべきなのかが明確になるので、お互いが気持ちよく仕事ができます。

それに何より、お客様が笑顔になります!

お客様がサービスに満足するとリピートや口コミにつながるので、結果的にサービスを提供する側にとってはビジネス的なメリット(売上向上や利益向上)にもつながっていきます。

SIAM™を学ぶには、以下の手段があります。

参考書籍を入手して自習する

SIAM™は以下の2つの知識体系(Body Of Knowledge)がまとめられ、発表されています。

  • SIAM Foundation Body of Knowledge (2nd edition)
  • SIAM Professional Body of Knowledge (2nd edition)

SIAM™をまとめているscopism社の以下のダウンロードサイトより無料でダウンロード可能です。

https://www.scopism.com/free-downloads/

※日本語版はファンデーションのみ

研修を受講する

ITプレナーズでは、上記の知識体系をもとに、講師が分かりやすく事例を交えて講義を行い、演習を通して学習を促進する研修を用意しています。

定期開催されているオープンコースのほか、個社開催も可能です。詳しくはぜひお気軽にお問い合わせください。